ダグラスレイン ファミリー フェイバリットはどこの蒸溜所?|アイルサベイかグレンキンチーか

ダグラスレイン オールド・パティキュラー A Family Favourite Distillery のボトルと筒 シングルモルト

「うちの家族の、お気に入りの蒸溜所から選んだ1本です」

ボトルにそう書いてある。ほな次は蒸溜所の名前が出てくるんやろ……と思うやろ? ところがダグラスレインは、そこで口を閉じてもうた。

オールド・パティキュラー「A Family Favourite Distillery」。そのまんま「一家のお気に入りの蒸溜所」が、商品の名前になっとるんや。

肝心の蒸溜所の名前は、どこにも無い。何年寝かせたんかも、いつ蒸溜したんかも書いてへん。……そこまで言うんやったら、どこか教えてくれてもええやん。

※これは公式情報をもとにした予習レビューやで。

ほな、ダグラスレイン ファミリー フェイバリットはどこの蒸溜所のウイスキーなんか。先に結論を言うとくと、具体的な手がかりが集まっとる中心の候補は「アイルサベイ」と「グレンキンチー」。そこから先の決め手は、まだ無い。

せやけど、この「決まらへん」までの道のりが、めちゃくちゃおもろいんや。手がかりを1枚ずつ、一緒にめくっていこか。

キャラ・レイン20周年の4本。この1本だけが、何も言わへん

このボトルを出したダグラスレインは、1948年にグラスゴーで生まれた家族経営のボトラーズ(※1)やねん。

いま会社を率いとる3代目のキャラ・レインは、2006年にこの業界に入って、2026年で20年。その記念に、キャラが自分で樽を選んだシリーズの1本が、今回のボトルなんや。

同じシリーズの4本を並べると、こうなる。

ボトル年数度数本数
ジュラ 15年15年48.4%297本
グレントファース 15年15年48.4%765本
インヴァーゴードン 20年20年48.4%740本
A Family Favourite Distillery書いてへん61.4%668本

3本は、蒸溜所の名前も年数もきっちり出しとる。ジュラなんか、キャラがこの業界に入って最初に担当したブランド。

ところが最後の1本だけ、蒸溜所の欄は「A Family Favourite」、年数は空っぽ。度数もこれだけ飛び抜けて高い。

キャラ本人は、この1本を「わたしにとって特に意味のあるウイスキー。ほんまに家族のお気に入りの蒸溜所からの1本」と紹介しとる。

特別な1本やと言いながら、名前は明かさへん。ワイは、ここにまんまと引っかかってもうた。

(※1)ボトラーズ=蒸溜所から原酒を樽ごと買うて、自分たちの目利きで瓶に詰めて売る会社。くわしくはボトラーズとは?

まずは中身。シェリーバット1樽の61.4%

名前Old Particular「A Family Favourite Distillery」
造り手ダグラスレイン(スコットランド・グラスゴー)
種類シングルモルト・スコッチウイスキー
蒸溜所非公表
熟成年数・蒸溜年非公表
シェリーバット(※1)1樽だけ(※2)
度数61.4%(水で割らずに瓶詰め(※3)
容量・本数700ml・668本
着色・冷却ろ過どっちもしてへん(※4)
日本での値段1万7千円台(税込。国内の店の掲載。売り切れの店もある)

(※1)シェリーバット=シェリーの香りをまとった、500リットル前後の大きな樽。くわしくはシェリー樽とは?
(※2)1つの樽だけで瓶詰めしたものを「シングルカスク」と呼ぶ。シングルカスクとは?
(※3)水で薄めずに瓶詰めすることを「カスクストレングス」と呼ぶ。カスクストレングスとは?
(※4)冷やしてろ過する工程を省いた仕立て。ノンチルフィルタードとは?

ふつうのウイスキーは、瓶に詰める前に水で割って40%台にそろえる。61.4%は、樽の中の度数をほぼそのまま閉じこめた数字やな。

ワイはこういうパンチのある度数が大好きで、ラベルに「カスクストレングス」と書いてあるボトルは、つい手が伸びてまうんや。数字を見ただけで、もう口の中が準備を始めとるわ。

予習テイスティング|濃いシェリーに、オレンジの皮とエスプレッソ

👃 香り

📕 公式テイスティング(ダグラスレイン)

シェリー樽からくるドライフルーツとサルタナ(干しぶどう)。そこにオレンジの皮、ココア、磨きこんだオークが明るさを添える。

🗣️ マッサンの予想

グラスに鼻を近づけたら、まず干しぶどうみたいな甘い果物がむわっと来ると予想するで。そのあとオレンジの皮がふっと顔を出して、重たくなりすぎへんように空気を入れ替えてくれるんちゃうかな。61.4%やから、アルコールの熱も最初はしっかり鼻に来ると思うねんな。

👅 味わい

📕 公式テイスティング(ダグラスレイン)

ビロードみたいになめらかなフルーツケーキ、糖蜜トフィー、ダークチョコレート。そこにナッツ、シナモン、クローブのスパイス。

🗣️ マッサンの予想

口に入れた瞬間、フルーツケーキとトフィーの甘さがどっしり広がるタイプやと予想するで。すぐあとに61.4%の熱がぐっと押してきて、ダークチョコのほろ苦さで締まる流れちゃうかな。シナモンとクローブは、冬のお菓子屋さんの前を通ったときの、あの匂いを思い浮かべとる。

🏁 余韻

📕 公式テイスティング(ダグラスレイン)

長く、体があたたまる。エスプレッソと甘いスパイス。

🗣️ マッサンの予想

飲みこんだあと、胸のあたりがぽっとあたたまって、濃いめのコーヒーの苦みが長う残ると思うねんな。甘いのに、最後はきりっと大人の顔。そんな終わり方を予想するで。

ラベルにも「Rich fruits, sherried sweetness, bitter mocha, orange peel & spice」(濃い果実、シェリーの甘さ、ほろ苦いモカ、オレンジの皮、スパイス)と書いてある。

で、ここでひとつ覚えといてほしい。ダグラスレインの説明にもラベルにも、煙やピート(※1)の言葉が1個も出てこーへん。これが、あとの推理でじわじわ効いてくる。

(※1)ピート=泥炭。これを焚いて麦芽をいぶすと、焚き火みたいな煙の香りがつく

🗣️ マッサンの一言

シェリー樽でどっしり甘いのに、オレンジの皮とエスプレッソで最後にきゅっと締める。この組み合わせ、グラスを持つ前からニヤけてまうわ。61.4%やから、ちびちびなめるように、長い夜の相棒にしたい1本や。謎解きのおともに、これ以上ない濃さやで。

手がかり① 名前だけ追うと、ポートエレンが浮かぶ

「一家のお気に入りの蒸溜所」と聞いて、ピンとくる名前がある。アイラ島のポートエレンや。

ダグラスレインは2020年、1979年に蒸溜したポートエレンの40年ものを299本だけ出した。そのときキャラは、ポートエレンを「ダグラスレイン家にとって、間違いなくお気に入りの蒸溜所」と言うとる。

創業者であるおじいちゃんのお気に入りで、父のフレッドとキャラが、特別な日に何度も一緒に飲んできたウイスキーでもある。

おじいちゃんから父、そして娘へ。三世代をつなぐ「家族のお気に入り」。20周年の記念に、これほどぴったりな話はなかなか無いで。

……と、ワイも最初はそう思った。ところが、ほかの手がかりと重ねると、急に苦しくなってくる。

まず、ダグラスレインは2020年のボトルに、ポートエレンの名前を堂々と書いて売っとる。今回だけ隠す理由が見当たらへん。

それに、ポートエレンは1983年にいったん閉まって、2024年3月に動き出したばかりの蒸溜所やねん。スコッチを名乗るには3年以上寝かせなあかんから、今回がポートエレンなら、閉まる前の原酒=40年をゆうに超える古酒ということになる。

本数にも、ちょっと引っかかる。2020年の40年ものは299本で、今回は668本。倍以上ある。

今回のボトルは「シェリーバット1樽」とラベルに書いてある。シェリーバットは500リットルぐらい入る大きな樽やけど、668本×700mlを足したら約468リットル。樽の中身が、ほとんど減ってへん計算になるんや。

ウイスキーは寝かせとる間、毎年2〜3%ずつ樽から蒸発して減っていく(エンジェルズシェアとは?)。40年も寝たら、半分以下になってまう。げんに299本の40年ものは、足しても約209リットル分やねん。

樽に詰めたときの量も、樽の実際の大きさも、どの熟成庫で寝かせたかも分からへん。せやから、本数だけでポートエレンを消すことはできへん。ただ、468リットルも残っとる樽を「40年超えの古酒」と呼ぶんは、ワイにはやっぱり引っかかるんよな。

それより、もっとはっきりした引っかかりがある。今回みたいなシングルカスク(1つの樽だけで詰めたボトル)でも、ダグラスレインは樽の古さでシリーズを分けとるんや。

定番のシリーズが、今回とおんなじ「オールド・パティキュラー」。もう1つ、長期熟成の希少な樽だけを集めた上位シリーズ「XOP(エックス・オー・ピー)」や。味の良し悪しやのうて、熟成年数と希少さでシリーズが分かれとる。

どれぐらいちがうんか、公式に出てるボトルを数えてみた。XOPのほうは18年から55年で、真ん中は25〜35年。いっぽうオールド・パティキュラーのほうは、7年から21年や。

2020年のポートエレン40年が置かれたんは、もちろんXOPのほう。もし今回が40年をゆうに超えるポートエレンやったら、なんで「定番のシリーズ」で出したんやろな。

シリーズどんなシリーズ?年数の幅ここに入るボトル
オールド・パティキュラー定番のシリーズ7〜21年今回の1本(年数は書いてへん)
XOP長いこと寝かせた古い樽だけ18〜55年2020年のポートエレン40年
プライベート ストックレイン家が自分用に取っといた樽から5〜21年5年ものの「ファミリー フェイバリット」

※年数の幅は、ダグラスレインの公式サイトに出てるボトルのいちばん下といちばん上。ここに出したんは今回の1本に関わる3つで、ほかにもビッグピートみたいに、何か所かの蒸溜所の原酒を混ぜて作るシリーズもある

📚 ちょっと脱線|ダグラスレインのシリーズ、ほかにどんなんがあるん?(押したら開くで)

公式サイトに出てる162本を数えたら、20近いシリーズに分かれとった。大きく3つのグループに分けると、こうなる。

① シングルカスク(1つの樽だけで瓶に詰めるやつ)

  • オールド・パティキュラー…(7〜21年・27本)定番のシングルカスク。今回のボトルもここ
    代表作:カリラ 10年/ラフロイグ 20年/ジュラ 15年
  • XOP…(18〜55年・23本)長いこと寝かせた古い樽だけ
    代表作:マッカラン 30年/ポートダンダス 45年/スペイサイドいちばんの蒸溜所 55年
  • プロヴェナンス…(8〜13年・6本)産地の個性をそのまま出す、手を加えすぎへんシングルカスク
    代表作:インチガワー 8年/トゥリバーディン 10年
  • プレミエバレル…(10〜12年・2本)陶器のデキャンタに入ったシングルカスク
    代表作:ベンリネス 12年/クレイゲラヒ 10年
  • レンジャーズ…(8〜26年・13本)サッカークラブのレンジャーズとのコラボ。こっちもシングルカスクや
    代表作:ベンリネス 8年ほか

② ブレンデッドモルト(何か所かの蒸溜所の原酒を混ぜたやつ)

  • ビッグピート…アイラ島・15本。アイラのモルトを混ぜた煙のキャラクター。樽ごと買える話も記事にしとる
    代表作:定番(46%)/12年/クリスマスエディション
  • スキャリーワグ…スペイサイド・12本。スペインのシェリー樽で寝かせたモルト。名前はレイン家が代々飼うとるフォックステリアから
    代表作:定番(46%)/10年/18年
  • ティモラスビースティー…ハイランド・8本。名前はロバート・バーンズの詩に出てくる、おくびょうなハツカネズミ
    代表作:定番(46.8%)/10年/18年
  • エピキュリアン…ローランド・12本。1930年代グラスゴーの、食いしん坊で洒落もんの男がキャラクター
    代表作:定番(46.2%)/12年/ピーテッドエディション
  • ゴールドロンズ…キャンベルタウン・5本。名前の意味は「嵐の入り江」
    代表作:定番(46.2%)/シェリーカスクエディション
  • ロックアイランド…島もの・4本。オークニー、アラン、ジュラ、アイラのモルトを合わせた1本
    代表作:定番(46.8%)/10年

③ そのほか

  • プライベート ストック…3本。レイン家が自分用に取っといた樽から
    代表作:レダイグ 13年/スペイサイド ブレンデッドモルト 21年(50本だけ)
  • ストラスアーン…6本。ダグラスレインが自分で持っとる蒸溜所のシングルモルト
    代表作:バッチ02/バッチ03(どっちも50%)
  • ダブルバレル…3本。2つの蒸溜所の原酒を合わせる
    代表作:ボウモア&ブレアアソール 10年/アイラ&ハイランド
  • クランデニー…3本。シングルグレーンからブレンデッドまで入っとるシリーズ
    代表作:ハイランド/スペイサイド/アイラのシングルモルト(40%)
  • キングオブスコッツ…3本。3代受け継いだブレンドの技で造るブレンデッド
    代表作:50年/ピーテッドエディション
  • ウイスキー以外…ジン、ウォッカ、ラム、コニャックも扱っとる

こうして見ると、今回の1本が定番のシングルカスクのシリーズから出たことの意味が見えてくる。名前も年数も伏せた1本が、いちばん標準のシリーズで売られとるんやからな。

味の説明も見といた。2020年のポートエレン40年には、公式のノートに「ピートを焚いた麦」「ヨード」「煙」がはっきり出とる。今回のノートには、煙の言葉がひとつも無い。

ポートエレンは、煙で知られた蒸溜所や。持ち主のディアジオも「ピートの効いた海辺の個性で知られた蒸溜所」と書いとるし、2024年に動き出した新しい蒸溜所でも、昔の形をそっくりコピーした蒸溜器で“あの煙い酒”を造るのが柱になっとる。せやから煙の言葉がゼロなんは、ここでは効くんよな。

名前の物語は満点。でも中身と合わへん。ポートエレンは、そんな「最初に疑いたくなる候補」やと思う。

手がかり② 家族で追うと、ストラスアーンもきれいにハマる

次に浮かぶのが、ストラスアーン蒸溜所。

ここは2019年10月に、ダグラスレインが自分で買い取った蒸溜所。1948年からずっと、よその蒸溜所の原酒を買うて瓶に詰めてきた会社が、はじめて持った自分の蒸溜所なんや。

ダグラスレインのサイトには「Fred’s Favourites(フレッドのお気に入り)」というコーナーがあって、そこにもストラスアーンが入っとる。

「一家のお気に入りの蒸溜所」と言われて、自分の家の蒸溜所を思い浮かべるのは自然やろ?

ここから先は、ワイの妄想やけどな。

ポートエレンが「おじいちゃんから受け継いだお気に入り」やとしたら、ストラスアーンは「自分たちの代で家族に迎えたお気に入り」。20周年のキャラが選ぶなら、こっちのほうが似合う気もしてくる。

せやけど、こっちにも引っかかりがある。ダグラスレインは「Strathearn Single Malt」を、自分とこの名前でふつうに売っとる。

自分の蒸溜所やのに、今回だけ名前を伏せる理由が、やっぱり見えへんのや。

手がかり③ ダグラスレインの商品ページは「ローランド」

ここで、話がぐるっと回る。

ダグラスレインの商品ページを見ると、このボトルの地域は「Lowland(ローランド)(※1)になっとる。

ポートエレンはアイラ、ストラスアーンはハイランド。どっちも合わへん。

蒸溜所を当てるんやったら、造り手がいま出しとる情報をいちばんに信じたい。そうすると、探し方そのものが変わってくる。

「家族が好きそうな蒸溜所」を探すんやのうて、「ローランドにあって、名前を出されへん蒸溜所」を探すんや。

ボトルに蒸溜所の名前が書かれへん理由は、いろいろある。そのひとつが、蒸溜所の持ち主が、よその会社のボトルに自分とこのブランド名を使わせへん、というパターンやな。

ローランドには、オーヘントッシャンや新しい蒸溜所もいくつもある。その中で、今回のボトルにつながる具体的な手がかりが出てくるのが、アイルサベイとグレンキンチーの2つなんや。

(※1)ローランド=スコットランド南部のウイスキーの産地。くわしくはローランドとは?

手がかり④ ドイツの店に「Ailsabay」の一行

ドイツのケルンに、Scotia Spirit(スコティア・スピリット)というウイスキー専門店がある。

この店の「2026年夏の新商品・おすすめ」の一覧に、今回のボトルがこう載っとる。

Ailsabay – Family Favourite Distillery 61,4 % Fiorst Fill Sherry Cask Old Particular

……書いてもうてるやん、「Ailsabay」って。

一覧は蒸溜所の名前の順に並んどって、ほかの行と同じように、先頭に蒸溜所名を置いとる。しかも、ダグラスレインが「Sherry Butt」としか言うてへん樽を、「First Fill(ファーストフィル)(※1)」とまで書いとる。「Fiorst」は、打ちまちがいやろな。

この店は前にも、名前を伏せたボトルをアイルサベイとして紹介しとる。2016年には「Lowlander by the Sea」をアイルサベイの原酒やと書いて、2018年には「Drumblade」を、アイルサベイにほかのモルトを少し混ぜたものやと書いとる。

しかもこの店、ダグラスレインとは縁が濃い。2026年10月22日には、キャラ・レイン本人を店に招いてテイスティングをやると告知しとる。まったく縁のない店が書いた一行とは、重みがちゃうやろ。

一方で、ほかの店の商品名は、どこも「A Family Favourite」のまま。今回のボトルを「Ailsabay」と名指しした販売情報は、今のところこの1軒の1行だけやねん。

それと、さっきの「Fiorst」の打ちまちがい。あれは、この行を人が手で打っとるしるしでもある。メーカーの商品データがそのまま流れてきたわけやない。そこは差し引いて見なあかんな。

アイルサベイは「名前を出されへん」蒸溜所

アイルサベイは、グレンフィディックやバルヴェニーでおなじみのウィリアム・グラント&サンズが、ガーヴァンの敷地に建てたローランドの蒸溜所。ウィリアム・グラントは、アイルサベイのシングルモルトを「Sweet Smoke(甘い煙)」と名付けて出しとる。

アイルサベイの原酒を出したボトラー「The Duchess」は、「ウィリアム・グラント&サンズは、独立系のボトルをこのブランド名では出させへん」と説明して、「Paddy’s Milestone」という別の名前で売っとる。

ローランドで、名前を出されへん。条件はぴったりや。

ただ、アイルサベイ説にも引っかかりはある。そのThe Duchessのボトルは、ほかの蒸溜所のモルトをほんの少し混ぜる「ティースプーニング」(※2)がしてあって、ラベルは「ブレンデッドモルト」やった。

これ、うっかり混ざったんやない。名前を使わせへんための仕掛けやねん。ウイスキーは1つの蒸溜所の原酒だけで詰めんと「シングルモルト」と名乗られへん。スプーン1杯でもよそのモルトが入った瞬間、ラベルは「ブレンデッドモルト」に変わる。そこへ「ブランド名は使わせへん」という取り決めが重なって、別の名前で売ることになるんや。

アイルサベイの原酒には、この形で世に出た例がいくつもある。さっきのドイツの店が挙げとった「Drumblade」も、トンプソンブラザーズの「Dalrymple」も、中身はアイルサベイで、ラベルはブレンデッドモルトや。

ところが今回のラベルには、はっきり「SINGLE MALT SCOTCH WHISKY」。スプーン1杯も混ざってへん、ということになる。

ほな、アイルサベイ説は消えるんか。ワイは消えへんと思う。名前を伏せたまま、シングルモルトで出た前例があるからや。

クリエイティブウイスキーという会社が出した「Lowland」というボトルは、蒸溜所の名前をどこにも書かんまま「SINGLE MALT SCOTCH WHISKY」と名乗って、樽の記号に「cask ref AB」とだけ入れとる。このABがアイルサベイのことやと、オークション会社もウイスキーのデータベースも書いとる(※3)

名前は伏せる。中身はシングルモルト。今回のボトルと、同じ出し方やろ?

樽から取れる本数も、けっこう近い。アイルサベイの2012年の原酒を、1stフィルのオロロソシェリーバットで11年寝かせて詰めたボトル(名前は「ダルリンプル」)は、56.8%で700本出とる。今回は668本や。

とはいえ、この形は数が少ない。「Ailsabay」に丸をつけかけた鉛筆が、ここで一回止まる。引っかかりの重さは、そのぐらいやと思うとるで。

(※1)ファーストフィル=シェリーを抜いたあと、はじめてウイスキーを入れる樽。樽の香りが濃く出やすい。ファーストフィルとは?
(※2)ティースプーニング=よその蒸溜所のモルトを、ごく少しだけ混ぜる手法。ティースプーニングとは?
(※3)クリエイティブウイスキーのボトルのラベルには「Lowland」としか書いてへん。中身をアイルサベイやと同定しとるのは、オークション会社やウイスキーのデータベースの側で、造り手の発表やない

手がかり⑤ ダグラスレインの「フェイバリット ローランド」は、ディアジオの蒸溜所

アイルサベイで決まりかと思ったら、もう1枚、気になるカードが出てくる。

ダグラスレインは2023年、東京の信濃屋向けに「A FAVOURITE LOWLAND(フェイバリット ローランド)」というボトルを出しとる。2014年蒸溜の9年もの。

「A Family Favourite」と「A Favourite Lowland」。名前、そっくりやろ?

信濃屋は蒸溜所の名前を明かしてへん。けど、説明を読むとヒントがぎっしり詰まっとる。

大手ディアジオが持つローランドの蒸溜所で、ジョニーウォーカーやヘイグといったブレンデッドウイスキーに原酒を出しとる。蒸溜器はスコットランドでも最大級。ボトラーズから出ることは、ほとんど無い。
(信濃屋の商品説明を要約)

ディアジオが持つローランドのモルト蒸溜所で、蒸溜器はスコットランドでも最大級。このヒントから浮かんでくるのが、グレンキンチーや。

ダグラスレインは日本で、ほかにも「フェイバリット ローランド 6年」(プレミエバレル)を出しとる。「フェイバリット」と「ローランド」の組み合わせは、一度きりの呼び名やないんやな。

グレンキンチーは、ほかのボトラーからも名前を伏せて出とる。「Club Qing」の「Secret Lowland」10年は、販売店の説明に「ラベルには書かれへんけど、名前はGで始まる」とあって、アメリカの販売店K&Lは商品名に「Glenkinchie」と添えとる。そのボトルのラベルも、ちゃんと「シングルモルト」やで。

もうひとつ、信濃屋は同じページで、ダグラスレインのローランドのブレンデッドモルト「エピキュリアン」に、オーヘントッシャン、グレンキンチー、そして名前を明かさへん「シークレットローランドモルト」の3つが入っとる、とも書いとる。

つまり信濃屋の説明では、エピキュリアンにはグレンキンチーとは別に、名前を明かしてへんローランドのモルトも入っとるということや。

ここから先は、ワイの妄想やけどな。そのもう1つが、アイルサベイやったりしてな……と思った瞬間、推理のシーソーがまたガタンと揺れた。

グレンキンチー説の弱点は、今回のボトルそのものを名指しする一行が無いことやな。

「ファミリー フェイバリット」は、1つの蒸溜所だけの暗号やなさそう

ここまで来ると、「Family Favourite」という言葉に答えが隠れとる、という見方は、ちょっと怪しくなってくる。

ダグラスレインは同じ2026年に、もう1本「Family Favourite Distillery」を出しとる。「Private Stock」シリーズの5年もので、シェリーバット1樽、58.5%、500mlが300本。これもキャラが選んで、1本ずつサインしとる。

この「プライベート ストック」いうんは、レイン家が売り物に回さず、自分らの分として取っといた樽から出すシリーズや。公式も5年もののことを「ダグラスレイン家の私蔵コレクションから瓶詰めした」と書いとる。いま公式に出てるんは3本だけで、本数も50本から300本と少ない。

こっちの地域は「Highland(ハイランド)」。61.4%の「ローランド」とは別の場所や。

イギリスの大手ウイスキー通販「Master of Malt」も、今回のボトルを「家族のお気に入りの蒸溜所の“ひとつ”」と紹介しとる。

つまり「Family Favourite」は、ひとつの蒸溜所を指す合言葉やなさそう。「レイン家が好きな蒸溜所やけど、今回は名前を出さへん」ときの呼び名、くらいに考えたほうがしっくりくる。

📚 おまけ|もう1本の「ファミリー フェイバリット」(5年もの)を追いかけてみた(押したら開くで)

ここで、ちょっと寄り道させてな。さっき出てきたもう1本のほう——ハイランドの5年もののページに、おもろい痕跡が残っとるんや。言うとくけど、今回の61.4%はローランドやから、これから出てくる蒸溜所は最初から土俵の外やで。

ホームページには、1ページずつにURL(住所みたいなもん)が付いとる。画面の上のほうに出とる、あの長い英字の列やな。商品の名前をあとから変えても、このURLだけは、ページを作ったときのまま残ることがあるんよ。

で、5年もののページのURLを見たら、こうなっとった。「private-stock-ledaig-5-years-old」。レダイグ——蒸溜所の名前が、まるっと入っとるやんか。

レダイグは、マル島のトバモリー蒸溜所が造る、ピートを効かせたシングルモルト。ここから先は、ワイの妄想やけどな。ページを用意した時点では「レダイグ5年」で出すつもりやって、あとから名前だけ「Family Favourite」に変えた……そんな筋書きが浮かんで、一瞬ワクワクした。

せやけど、これで決まりとは言えへん。ダグラスレインの「レダイグ13年」は、公式の香りの一発目が「くすぶるピートの煙」。いっぽう5年もののほうは、煙の言葉がひとつも無いんや。URLに名前が残っとるんはおもろい。けど、正体を決める証拠にはならへん。ワイの名推理は、ここで止まりやな。

ついでに言うとくと、今回の61.4%のほうは、URLも「a-family-favourite-distillery」。こっちには、別の蒸溜所の名前らしい痕跡は残ってへん。

ここまでの手がかりを並べると|結局どこの蒸溜所なんや

候補手がかり合わへんところ
ポートエレン
(アイラ)
キャラが「ダグラスレイン家のお気に入り」と呼んだ地域がちがう。2020年は名前を出して売った。旧原酒なら40年超やのに、古い樽用のXOPやのうてオールド・パティキュラーで出とる
ストラスアーン
(ハイランド)
ダグラスレインの自社蒸溜所。「Fred’s Favourites」に入っとる地域がちがう。ふだんは名前を出して売っとる
アイルサベイ
(ローランド)
ドイツの専門店が「Ailsabay」と記載。持ち主は独立系にブランド名を使わせへんラベルは「SINGLE MALT」。アイルサベイはブレンデッドモルトで出た例が多いから、この形は少数派
グレンキンチー
(ローランド)
ダグラスレインの「フェイバリット ローランド」はディアジオのローランドの蒸溜所。名前を伏せたシングルモルトの例がある今回のボトルを名指しした情報が無い

ここまでの具体的な手がかりから、中心に浮かぶのはアイルサベイとグレンキンチー。今わかっとる材料では、ここから先の決め手が無い。

🗣️ マッサンの一言

推理しとる間、ワイの頭の中では、ずっとアイルサベイとグレンキンチーがシーソーに乗っとった。ドイツの一行を見たらアイルサベイ、信濃屋の説明を読んだらグレンキンチー。何回ガタンガタンしたか分からへん。けど、どっちに転んでもシェリーバット1樽の61.4%や。中身がおいしそうなことだけは、1ミリも揺らいでへんで。

いちばんの謎|なんで年数まで隠したん?

蒸溜所の名前を伏せたボトル自体は、ボトラーズの世界では珍しくない。

ダグラスレインにも前例がある。「Probably Speyside’s Finest Distillery(たぶんスペイサイドいちばんの蒸溜所)」の名前で出した、1967年蒸溜の50年もの。さっきの信濃屋向け「フェイバリット ローランド」も、2014年蒸溜の9年ものやった。

どっちも蒸溜所の名前は伏せとる。それでも、年数と蒸溜年はちゃんと書いとる

これ、昔の話だけやない。いまのダグラスレインにも「XOP スペイサイドいちばんの蒸溜所 55年」が出とる。蒸溜所の名前は伏せたままで、55年・310本・52.5%と、数字のほうは堂々と書いてある。

今回はちがう。蒸溜所も、年数も、蒸溜年も、ぜんぶ書いてへん。20周年の4本のうち、この1本だけや。

どれぐらい珍しいんか、公式に出てるオールド・パティキュラーを数えてみた。27本のうち、年数が書いてへんのは今回の1本だけ。ほかは7年、8年、9年……21年と、きっちり年数が入っとる。

ここから先は、ワイの妄想やけどな。

はじめにあったんは、「この蒸溜所の名前は出されへん」という、ボトラーズではよくある縛りやったんちゃうかな。

ふつうなら「Secret Lowland ◯年」と付けて、それで終わりや。せやけど今回は、キャラの20周年。ジュラ、グレントファース、インヴァーゴードンと、自分にとって意味のある樽を並べてきて、最後の1本だけ「Secret」ではさみしい。

そこで「うちの家族が好きな蒸溜所」とだけ書いて、年数まで消した。そうしたら、飲む前から「どこなん?」「何年なん?」「なんで隠すん?」が始まる。

言えへんかった。せやから、遊んだ。どっちか片方やのうて、両方ちゃうかなとワイは思っとる。

年数を消したんには、もうひとつ意味がありそうや。年数が書いてあったら、その年に原酒を造っとった蒸溜所をたどって、候補がぐっと絞れてまう。年数そのものが、答えのヒントになるんや。

名前は伏せても、年数でバレたら謎解きにならへん。せやから、まとめて消した。……そう考えたら、なんやキャラと知恵くらべをしとる気分になってくるわ。

もしアイルサベイやったら/グレンキンチーやったら

正体によって、グラスの中の見え方もがらっと変わる。ここは思いきり妄想させてな。

アイルサベイやったら|「甘い煙」を脱いだ、もうひとつの顔

アイルサベイのシングルモルトといえば「甘い煙」。ところが今回は、煙の言葉がゼロ。

ここで大事なことがある。アイルサベイは煙だけの蒸溜所やない。ウイスキーの資料には、この蒸溜所が4つの個性を造り分けとると書いてある。華やかなやつ、香ばしいやつ、フルーティーなやつ、そして濃い煙のやつ。売り場に並ぶボトルが煙寄りなだけで、中では煙なしの原酒もどんどん造っとるんや。

つまり「煙の言葉がゼロ」は、アイルサベイ説を消す材料にはならへん。

もしアイルサベイなら、ふだん見せてへん「煙なしの顔」に、シェリーバットの濃い衣装を着せたボトルということになる。

ピート好きのワイとしては、61.4%の奥から、最後の最後にほんのり煙がのぞいたりせえへんかな……と、つい期待してまう。

グレンキンチーやったら|軽やかな蒸溜所が、濃いシェリーをまとう

グレンキンチーの12年は、花のような軽やかな香りと、なめらかでクリーミーな味わいの1本やねん。

そこへ、シェリーバットのフルーツケーキとダークチョコ、61.4%の力強さ。いつもの姿とは、だいぶ様子がちがう。

濃いシェリーの奥から、花みたいな軽さがすっと顔を出したら……それこそ、ボトラーズならではのおもしろさやと思う。

こんな人に合う。飲むならまずストレートで

  • 濃いシェリー樽のウイスキーが好きな人
  • 60%前後の力強い度数を、ちびちび楽しめる人
  • 「この中身、どこの蒸溜所やろ?」と考えながら飲むのが好きな人

逆に、「蒸溜所も年数も分からんもんには、お金を出しにくい」という人には、ちょっと向かへん。この1本の楽しさの半分は、分からへんことそのものにあるからな。

値段は、国内の店の掲載で1万7千円台(税込)。取り扱いの少ないボトルで売り切れの店もあるから、見つけたら在庫と値段を確かめてから決めてな。

飲むなら、ワイは最初ストレート。61.4%あるから、ほんの少しずつ口に含む。

ドライフルーツが先に来るんか、チョコが先か。オレンジの皮はどのへんで出てくるんか。そして、煙はほんまに1ミリも無いんか。推理のつづきを、グラスの中でやる感じや。

そのあと、水を数滴。度数の高いウイスキーは、少し水を足すだけで香りがふわっと開くことがある(加水とは?)。

ハイボールにするんは、この正体不明の原酒とじっくり話しこんだあとでええ。

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価格は時期で変動。購入前に複数サイト比較を。

※取り扱いの少ないボトルやから、下のボタンはダグラスレインのオールド・パティキュラー全体の検索ページにつないどる

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品揃え豊富な専門店なら、レア銘柄や限定品も見つかりやすいで。価格を比べる時の選択肢に入れてみてな。
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MALKS(モルクス)(ベルーナ運営・希少/限定ボトルに強い)

📰 当サイトのガイド記事:ウイスキーを安く買う方法|5大通販ショップの賢い選び方

まとめ|「分からへん」が、このボトルの完成形

名前だけ追えばポートエレン。家族で追えばストラスアーン。地域を見たら、アイルサベイとグレンキンチー。

手がかりをめくるたびに、答えがひっくり返る。ここまで遊ばせてくれるウイスキーは、そうそう無い。

蒸溜所の名前も年数も書いてへんラベルは、見方を変えたら「ほな、みんなで考えてみて」という招待状や。

いつか正体が明かされる日が来ても、分からへんまま推理したこの時間は、ずっとおもろい思い出として残ると思う。

🗣️ マッサンの一言

ボトラーズの沼って、ラベルに書いてあることを読むだけやのうて、書いてへんことまで読みたなるとこがあるんよ。A Family Favourite は、その入り口にぴったりの1本や。シェリーバット1樽の61.4%をグラスに注いで、みんなも自分なりの答えを出してみてな。

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蒸溜所も年数も秘密。シェリーバット1樽の61.4%

よくある質問

Q. ダグラスレイン ファミリー フェイバリットは、どこの蒸溜所のウイスキーなん?

A. ダグラスレインは蒸溜所の名前を公表してへん。公式の商品ページに書いてあるんは、産地の「ローランド」だけや。そこから手がかりを追うと、中心の候補はアイルサベイとグレンキンチーの2つに絞れる。決め手はまだ無いで。

Q. 何年熟成?

A. 年数も蒸溜年も公表されてへん。同じシリーズの3本は年数を出しとるから、この1本だけ伏せとることになる。

Q. 「Private Stock Family Favourite Distillery 5年」とは同じ中身?

A. 別のボトルや。5年もののほうは地域がハイランドで、58.5%・500mlが300本。こっちは61.4%・700mlが668本や。

公式情報・参考リンク

📰 ダグラスレイン公式サイト・販売店・参考記事

※アイキャッチ画像出典:Douglas Laing(ドイツの輸入元Rising Brandsの発表資料)
※価格・スペック・発売情報は本記事執筆時点のもの。
最新情報は必ず公式サイトでご確認ください。

📖 この記事に出てきた用語(タップで辞典へ)

分からん言葉があったら、ここから用語辞典でサクッと確認してな。

ティースプーニング…よその蒸溜所のシングルモルトをスプーン一杯だけ混ぜて、法律上シングルモルトから外す手法。ブランドの名前を守るためにやる。

ピート/ピーテッド…泥炭(ピート)で麦芽を燻して付ける、焚き火や正露丸みたいなスモーキーな香りのことや。

カスクストレングス…樽から出したまま、加水でうすめてへん高い度数のボトルのこと。香りも味も力強い。

ノンチルフィルタード…冷やして白濁のもとになる成分を濾す工程をあえてせん造り。その成分が残りやすいから、冷やしたり加水したりすると白う濁ることがある。傷んだんやないで。味に厚みが出るともよう言われとる。

シェリー樽…スペインの酒精強化ワイン「シェリー」を熟成させた樽や、ウイスキー用にシェリーで風味づけ(シーズニング)した樽。中身のシェリーの種類で味の向きが変わるんや。

オーク…ウイスキー熟成の主要樽材。アメリカン(甘いお菓子系)/ヨーロピアン・スパニッシュ(濃厚ドライフルーツ系)/ミズナラ(和のお香系)/フレンチ(上品スパイス系)などの樽材で香味の方向性が決まる。

ファーストフィル…バーボンやシェリーを抜いたあとの樽を、そのウイスキーの熟成に初めて使う段階のことや。使い回したリフィル樽より、前の酒と木の個性が濃く出るんや。

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